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最高裁判所第一小法廷 昭和43年(オ)1325号 判決

三重県多気郡明和町大字大淀乙七三七番地

上告人

合資会社 明造商店

右代表者代表社員

橋爪真次

被上告人

右代表者法務大臣

前尾繁三郎

右当事者間の名古屋高等裁判所昭和四三年(ネ)第三五〇号損害賠償請求事件について、同裁判所が昭和四三年九月二六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由第一点、第三点、第五ないし一〇点について。

原審の事実認定は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠関係に照らし是認することができる。原判決認定の事実によれば、上告人の本件係争事業年度における法人税について、松阪税務署長が更正決定をし、または、名古屋国税局長が審査請求棄却決定をするにあたり、本件腐敗モロミ発生による上告人の所得減の事実を看過したことに故意、過失はなかつたとの原審の判断は正当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は理由がない。

同第二、四点について。

原判決認定の事実によれば、名古屋国税局長は応訴の理由がないことを知りながら、もしくは、これを過失により知らないで、所論行政訴訟に応訴、抗争したものであるとはいえないとした原審の判断は正当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は理由がない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岸盛一 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三)

(昭和四三年(オ)第一三二五号 上告人 合資会社明造商店)

上告人の上告理由

第一点 原判決は甲第三十号証に関し、判決に影響を及ぼすこと明かな採証法則違反、事実誤認等の違法がある。その理由を左に述べる。

一、甲第三十号証は、本件審査に当つた訴外名古屋国税局協議団津支部が、その調査に基き、上告人に回答した公文書であつて、その第二項には、「腐敗品については、昭和二十三年、及び、同二十四年上期において、棚卸資産として処理すべきものと認める。」旨、記載して居る処、第一審判示は「証人真弓金二郎の証言により、右書証をもつて腐敗品が係争年度に生じたことを、税務当局において認めて居たものと、解さない。」旨、判示した。(三十二頁)右に対し、上告人は左記理由により、右判示は失当であるとして控訴したものである。そうであるのに、何の理由も付けずに、右判示を引用してなした、原判決には前記の違法がある。

(1) 右真弓証人の証言を検討するに、「甲第三十号証は西井協議官が、支部長印を勝手に押したものである。」として居るのであるから、甲第三十号証は、本件を調査した税務当局の公印はあるけれども、その意志を表明したものでない。又、右信念から出発した真弓証人の証言が、すべて甲第三十号証否認のもとに、なされたものであることも首肯出来る。然し右証言は次の理由により正当でない。

(2) 甲第三十号証の成立は、被上告人も認めたのみか、右真弓証人も別件行政訴訟においては、訴外名古屋国税局長の代理人として認めた(乙一)ものである。その上、西井協議官が公印乱用、或は、虚偽公文書作成、又、右協議団津支部長が、公印管理不取締等の点で処分を受て居ない故、右甲号証が税務当局の意志を、適正に表明した公文書であることは、疑う余地がないものである。

二、次に甲第三十号証第二項が、判決に影響を及ぼす点について述べる。

甲第三十号証第二項の趣旨は、「本件腐敗品に相当する約一六キロリットル(約九十石)の醤油モロミが、本件係争年度(昭二十三)末には、棚卸品として残存して居た」と云うにあり、そして「腐敗品は……」と云つて居るのであるから、協議団が調査した時期(昭二十六)には、既に腐敗して居たことを示すものである。

右協議団を指揮監督する任にある、訴外名古屋国税局長は、職責として、甲第三十号証の事実、及び、上告人に対し、昭和二十三年度から同二十六年度の間に右腐敗品について、課税上考慮しなかつた事実は、充分知つて居た筈である。そこで

(1) 右局長としても、右腐敗品が昭和二十三年度から同二十六年度の間に、上告人の損失として考慮しなければならない事も当然知つて居た筈である。そうであるのに右局長は、本件審査決定に当り、右腐敗品を全く知らず、従つて考慮しなかつた(真弓証言)のは、調査義務に違背した行為である。

(2) 甲第三十号証により、右腐敗品が本件係争年度末には、棚卸品として存在したことを知つて居る筈の右局長が、別件訴訟において、右腐敗品を販売した、(即ち残存して居なかつた)、と、主張して応訴抗弁した(乙一)のは、故意に事実を曲げて、上告人を傷けようとしたものである。

第二点 原判決は訴外名古屋国税局長が、別件訴訟において、上告人が醤油一三二五七・九リツトルを記帳外に製造販売したとして、上告人を故意に傷けようとしたもので、あるとする、上告人の左記主張につき判決理由を掲示して居ない。

乙第一号証によれば、右局長は一四九三七キログラムの醤油用塩の内、統制規則により記帳した塩は一一、七五二キログラムであると推認して、その差三一八五キログラムの塩をもつて、上告人が醤油一三二五七・九リツトルを記帳外に製造販売した、と主張し、又、同局長は甲第二十七号証を、別件訴訟に乙第二十一号証として提出して醤油用原材料受払量を示した。甲第二十七号証記載の塩の量を合計すると、一四、一〇七キログラムとなるから、醤油用として記載された塩が一一、七五二キログラムでないことは、判つて居た筈である。そうであるのに、右局長は敢えて右不正な主張をもつて、応訴抗弁したものである。

第三点 原判決には、判決に影響を及ぼすこと明かな理由齟齬、判断遺脱の違法がある。

原判示理由一の趣旨は「藤具、真弓両係官に職務上の義務違背があつたとしても、それは上告人が藤具係官に現存する腐敗モロミの指示説明がなかつたこと、或は協同組合に対し、腐敗の報告を怠つたことに基因するもので、義務違背があつたとは認めない。」と云うにある処、右判示は次の理由により失当である。

一、上告人が、右義務違背があるとした主要な点は、次の通りであるものを、原審は取り違えて、間違つた判断をしたものである。

(1) 藤具係官の場合

(イ) 原材料受払調査の目的で臨場して、その大部分を貯蔵する桶の傍迄行きながら、その中味を見ようともしなかつた点、(藤具証言、上告人、本人の供述、乙八)、及び、調査上不審を感じても、一言の質問調査も行わなかつた点、(橋爪政次の証言)、或は、そごもない上告人帳簿に、齟齬ありとした点等をもつて、藤具係官の調査義務違背を主張したものである。

(ロ) 右(イ)の義務違背行為は、本件の腐敗事実を指示したと否とに関係なく、生じるものであるから、右判示の、腐敗を指示しなかつた故に、調査を誤つたとする、論は成り立たない。

(2) 真弓係官の場合

(イ) 上告人が、義務違背であるとした点は、前掲上告理由第一点二、に述べた点である。

(ロ) 本件腐敗は、審査中にも、上告人が協議団迄申出て、その調査を受けた事実は、第一審も認めたものである。(三十二頁三十三頁)従つて審査決定に当り、右真弓係官は職責として、腐敗の件を知らなかつたと、云えないのであるから、右判示は失当である。

二、原審が「右両係官が調査義務違背したのは、上告人が協同組合へ報告しなかつたことに、基因する。」としても、税務当局が協同組合を調べたのは、審査決定の後である(真弓証言)から、右両係官が本件決定をするに当り、右組合調査の結果が、判つて居なかつたことは事実である。従つて、右一に述べた両係官の義務違背行為が、右組合への報告の内容如何によつて左右されたものでないから、右判示は失当である。

第四点 訴外名古屋国税局長、及び同局係官真弓金二郎等が、別件行政訴訟において、上告人が主張した腐敗や欠減を、月報にないことを理由に否認した(甲四十三)のは、右局長等の故意過失に基く違法行為であるとする、上告人の本訴提起理由に対し、原判決はその理由を付けて居ない。

一、右局長は、別件行政訴訟において、「欠減や腐敗は月報による報告がないものは認めない」(甲四十三)として、上告人が主張した、腐敗や欠減を否認したものであるが、右局長の主張が、左記の通り何等適正な根拠がなく、応訴抗弁の理由とならないことは、右局長等の職務上要求せられる知識経験から見て、当然判つて居た筈であるのに、右局長は敢えて、右不正な主張をもつて、上告人を傷けようとしたものである。

そして、上告人が右理由をもつて、本訴に及んだ処、原判決(第一審判示を含む)は、これを排斥して、その理由を掲示して居ない。

二、本件係争年度当時、食糧品配給公団の検査は、味噌にあつては、仕込から製品迄を、又醤油にあつては、製品のみを行つた(甲三十六)から、業者は右に基いて、月月その原材料、製品等の受払量を、協同組合を経て、農林省へ報告したもので、これが所謂月報である。

(1) 本件の場合、腐敗モロミにあつては、(それが腐敗して居たか否かは別として、)期末にモロミとして残存して居たことは甲第三十号証も認めた処であり、又、味噌にあつては、甲第二十六号証の六〇五貫の味噌の腐敗が認められたものである。それを訴外古橋彦作(元右公団検査官)が、上告人からの依頼により、腐敗があつた旨証明し(甲二十九)た処、右局長より帳簿上正確な回答を求められ、味噌については、六〇五貫の腐敗を認めたが、モロミについては、断定出来ないと回答した(甲二十六)もので、モロミの腐敗がなかつたとは云つて居ない。従つて、月報によりモロミの腐敗事実を、否認出来る根拠はなかつたのである。

(2) 月報は統計の目的で、報告されたものであるから、職務上月報の内容を知つた者は、これを同目的以外に他にもらすことが出来ない(甲三十六)のである。従つて課税のための調査を行つても、明確な返答はなかつた筈である。例えば、別件訴訟の証人清水壱良の証言の如く、「腐敗させたことは知らんと云つたのは、腐敗させたかどうか知らんと云う意味です。」(甲三十六)と、弁明して居るのに、真弓係官が腐敗はなかつたと、勝手な解釈をしたものと思料され、腐敗有無の調査に、左記のような慎重さを欠いたものである。

(3) 右月報は、公団廃止と同時に処分されて居り、本件調査当時には、月報を直接調べることは、出来なかつたのであるから、たゞ聞いたり、証明書を取つたとしても、その裏付けとなるものがなければ、確認出来たとは云えないものを、右局長等は、その裏付け操作を欠いたか、若しくは誤つた処置判断をしたものである。

三、そこで真弓係官等が、実際に調査をした事情を検討するに、左記のような不正確なもので、月報上腐敗がなかつたと、確認出来たとは、到底受け取れないものである。

(1) 真弓係官が「組合で腐敗は味噌も醤油も全くないと聞いて確認した」(甲四十一)として別件訴訟において上告人主張の味噌及び醤油モロミの腐敗を否認した。(乙一)右局長は甲第二十六号証(別件訴訟乙二〇)を提出して、味噌六〇五貫の腐敗を認めて居る。そこで右局長等は、右腐敗がないと云うことと、六〇五貫の腐敗があると云う相矛盾した点について、更に調査するべきであるのに、それを怠つて、不正な右主張をして、別件訴訟を混乱長期化せしめたものである。

(2) 第一審における、昭和四〇年一月二九日付被上告人の準備書面第二、三、によれば醤油用塩一四、九三七キログラムは、全部統制品である処、その内三一八五キログラムを、記帳外に使用したとして居る。(上告理由第二点)然し、統制品の二割以上の部分を、記帳外に使用出来る筈がない(若し出来るとすれば、そのような統制々度、引いては月報に信が置けなくなる、)のであるから、右主張をする前に、右不合理な点と、上告人が主張した腐敗の点とに付き、月報上更に調査をするべきである。そうであるのに、右局長は右につき何の考慮もなさずに、右不合理な主張をして、上告人を傷けようとしたものである。

(3) 別件行政訴訟において、右局長は、一方において、月報にないことを理由に、上告人が主張した、欠減や腐敗を否認し、(甲四十三)又、一方では、月報にない味噌四七六貫及び醤油七三石六五五合の製造販売をその製造販売事実も判らないのに、主張したものである。(乙一)右局長の応訴行為は、相矛盾した不合理な主張をもつて、上告人を傷けようとしたものであることは明白である。

第五点 本件腐敗を考慮せずに、審査決定した、訴外名古屋国税局長の行為を許容した、左記第一審判示理由を引用してなした原判決は、判決に影響すること明かな、理由不備、審理不尽、条理違反等の違法がある。

「協議団は本件腐敗を、昭和二十三年度のものと認めなかつたから、その議決報告書にも、腐敗の件はもれて居た、」旨の第一審判示(四十二頁)は、次の理由により失当である。

一、右「協議団は腐敗を、昭和二十三年度のものと認めなかつた、」とする点、及び、「協議団が議決報告書に、腐敗の件を書かなかつた、」と、する点は、何れもその事実を証するものがないから、右判示は理由不備である。

二、それのみか、協議団は、右腐敗品を調査して、(第一審判示三十二頁三十三頁)昭和二十三年度の棚卸品と認めた(甲三十)のであるから、その職責として報告しない筈がない。それを何等審理も行わずに、右判示をした原判決は、審理不尽である。

三、仮りに、右報告がなかつたとしても、それは国税局部内の問題であつて、上告人としては、第一審判示も認めた(三十二頁、三十三頁)如く、右腐敗につき、口頭にせよ申立を行い、調査迄受けたものを、右局長が審査決定後迄知らず、(真弓証言)従つて、審査決定に当り、全く考慮しなかつたのは、右局長の義務違背である。そうであるのに、右腐敗を無視して審査決定したことを許容した原判決は条理違反である。

第六点 以上の外、第一審判決を不服として、控訴した上告人の左記主張につき、何等理由を付けずに、そのまま第一審判示を引用した、原判決には、左の通り違法がある。

一、第一審は「訴外松阪税務署長は、上告人の帳簿が不正確であつたから、推計課税をすることとして、藤具係官を上告人工場に、臨時調査を行わせた、」旨の判示(二十三頁)をして居る処、藤具係官が臨場する前に、上告人の帳簿が、不正確であると判つて居たとは、両当事が何れも、主張して居ないことにつき、判定したもので違法である。尚右帳簿が不正確でありとする間違つた先入観の下になされた、原判決は全面的に排斥せられるべきである。

二、「金銭出納簿が赤字になつて居ながら、なお支払がなされて居る、不合理な処理がなされて居り、又、原材料受払、仕入、売上、金銭出納簿と、対照して見ると、その間にそごがある。」との第一審判示(二十二頁)を引用した原判決は左の理由により、事実誤認、理由不備、判断遺脱の違法がある。

(1) 上告会社は、設立当初に現金は一銭もなく、必要の都度、有限責任社員橋爪真次(現代表社員)より借り入れて、支払を済せたものである。(甲二十八)それを記帳に当り、借入金と買掛金等に仕訳けて、金銭出納簿には、受払共に同じ金額を記入して、残額を零とするべき処を、甲第三十二号証の通り記載したもので、普通の金銭出納簿の観念からすれば、異式なものであつても、上告人の帳簿組織全体から見れば、不合理と云うものでない。

(2) 金銭出納簿と関係帳簿との間に、そごがあるとの判示は、その事実を挙示出来ないのであるから、事実誤認、理由不備である。

三、第一審の「推計の方法も、原材料および製品の取扱量、事業規模により推計し、他の同業者との比較をして、正当と推定したのであるから、一般的には合理的な方法として是認し得る。」(三十四頁三十五頁)又、「右係官(藤具)等がなすべき当然の調査を怠つたものとは認めがたい。」(三十八頁)との判示を引用した、原判決は審理不尽、判断遺脱の違法がある。その理由を次に挙げる。

(1) 右判示の、合理的な推計の方法のみに依ることは、真実に添わない謂所十把一からげの、課税を行う危険があり、当時の実情が、その通りであつたことは、平田国税庁長官も認めた処である。(甲四十八)凡そ税制が実額課税を本則とする以上、右合理的な推定の方法によるとしても、又、各個の特別事情をも、併せ考えなければならないことは、右平田長官も指摘した処である。そうであるのに、藤具係官が、上告人の帳簿等に現れた特別事情(甲五の出荷不能罰金、甲二十二の原料配給停止、甲二十五の出荷途絶、甲二十八の品質に自信をなくしたとの訴え等)を、不問にして課税決定をしたこと迄、調査を怠つたものでないとした、右判示は失当である。

(2) 右「推計の方法も合理的な方法として、是認し得る。」と判示しても、原審(第一審を含む)は藤具係官が、どのような資料に基き、本件課税標準額を金一五四、四一九円としたか、審理して居ないのであるから、実際に右金額が、合理的に妥当であるか、判らない筈である。それをただ一般論だけをもつて、なした原判決には、右述の違法がある。

四、第一審の「藤具係官が、臨場調査をした際に、立会した上告会社々員から、腐敗モロミが現存したことの、指示確認を受けなかつたし、又、同係官が一見しても、腐敗に気付かなかつた。」旨の判示(三十六頁)を引用した原判決は、左記の通り事実誤認の違法がある。

(1) 右藤具臨場の際、上告人が腐敗の件を申出たことは、第一審証人、橋爪政次の証言により、明かであり、又、上告人本人の、「腐敗品を見てもらう準備をした。」との供述によつても伺えるものである。

(2) 右「藤具係官が一見しても」と、云うが、藤具係官は腐敗モロミが貯蔵されて居る、桶の傍迄行つても、その中味を見ようとしなかつた、(藤具証言、上告人本人の供述)のであるから、気付く筈がない。

五、「納税義務者としても、欠損原因の事実証明について、書類をもつて申立てることが、要請されて然るべき処、上告人の法人税申告書類にも、腐敗の件が明記なかつたから、腐敗物が生じたことの有無について、調査に、欠けるところがあつたとしても、無理からぬものがある。」旨の第一審判示(三十五頁乃至三十七頁)を引用した、原判決には事実誤認、条理違反等の違法がある。

(1) 税務申告においては、書類による外、口頭による申立も、許されて居るものであり、本件の場合、上告人としては(勿論決算面では、損失を算出した、財務諸表を提出したものであるが、)腐敗の件を口頭で申出たもので、前掲上告理由第三点一、(2)及び、右、四(1)に述べた通りである。それを、書面によらなかつたからと、排斥した原判決は違法である。

(2) 原審(第一審を含む)は、調査が職権主義であるとしながら、本件課税処分に当り、藤具、真弓係官等がなした、調査上の左記基本的な不備の点を、見逃したのは当を得たものでない。

(イ) 藤具係官の調査の不備な点は、前掲上告理由第三点一、(1)(イ)に、述べたものである。そして右調査を進めて行けば、自然と腐敗の点に迄、到達するものである。

(ロ) 一、真弓係官の審査処分の場合は、前掲上告理由第三点一、(2)に述べた通りである。

六、第一審の「腐敗があれば、業者としてはこれを、協同組合に報告することになつて居たのに、上告人はその報告もして居ない。」旨の判示(三十七頁)を引用した原判決は、審理不尽、判断遺脱の違法がある。次にその理由を述べる。

月報の性質、及び、訴外名古屋国税局長が月報により、本件腐敗を否認した根拠が曖昧であつたことは、前掲上告理由第四点に述べた通りである。上告人としては、届け出なければならなかつたものは、届け出たものであり、又、当時上告人が、出荷不能罰金(甲五)や原料配給停止(甲二十二)処分を受けたのであるから、協同組合としても、右処分をなすに当つては、相当の調査をしたものである。然も右調査について統制品の横流し等はなく、製品の品質不良の点にあつた(甲二十二)のである。原審(第一審を含む)は右諸点(例えば右品質不良の程度等)につき、審理判断を欠き、右判示のような誤つた理由により、右局長の応訴行為を許容したのは間違つて居る。

七、第一審が藤具係官の調査に、欠ける処があつたと、認め(三十五頁)ながら「限られた期間に、多数処理しなければ、ならないのであるから、調査に欠ける処があつたとしても無理からぬ」との判示(三十七頁)をなしたことを引用した原判決は、条理違反等の違法がある。

何となれば、藤具係官が、調査に不審を感じても一言の質問調査も行わず、又、原材料調査に当り、その大部分を保管する桶の傍迄行きながら、中味を見ようとしなかつたことは、第一審証人、橋爪政次、及び、同藤具貞の証言により明かである。従つて、如何に多忙とは云え、右基本的な調査を怠つたこと迄、無理からぬと、許容した原判決は公正でない。

八、第一審の「本件腐敗モロミが、係争年数に発生したものとの認定はむつかしい。」旨の判示(四十三頁)を引用した、原判決は、左記の通り採証法則違反、判断遺脱の違法がある。

本件の腐敗が、昭和二十三年度から、同二十六年度の何れかの年度に、発生したものであることは、前掲上告理由第一点二、に述べた通りである。そして昭和二十三年度(係争年度)中に、左記の事実があつたものである。

出荷不能罰金を取られた。(甲五)

八月九月十月に出荷途絶をして居る。(甲二十五)

原料の配給停止処分を受けた。(甲二十二)

一時品質に自信をなくした。(甲二十八)

税務当局としても、右腐敗品に相当する、原料塩三一八五キログラムの使用を認めたが、その製品の販売事実は確認して居ない。

上告人としても、右塩による成品が、本件腐敗モロミであると主張して居る。

然も、昭和二十四年から同二十六年の間に、本件腐敗品に当るような、大量の腐敗が、生じる可能性が何一つないのであるから、本件腐敗が係争年度に発生して、他の何の年度にも、発生しなかつたことは容易に判断がつくものである。それを、原審は、前掲の通り、甲第三十号証を否認し、月報上の誤つた判断をなし、右諸事実を無視して、本件腐敗の認定は、むつかしいとした、右判示は失当である。

九、第一審の「乙第五号証ないし同第七号証によれば、上告人は、会計帳簿の不符合を認め、又、製品の一部横流しも認めて居る。」旨の判示(四十三頁)を引用した、原判決は、左記の通り、採証法則違反、判断遺脱の違法がある。

(1) 上告人の帳簿に不符合な点はない、又右乙号証の何処にも、不符合であることを示す、記事は見当らない。この点説明をすれば、在庫調書にあつては、特に原料塩について当時運搬用の容器が少く、着荷と同時に返却しなければならなかつたから、大桶に遷し替えたものである。そこで在庫調書に当つては、一つ一つ看貫するでなく、大桶にあるまゝを採尺の方法で、棚卸量を指定したから、事実と多少の相違があるものである。(但し昭和二十四年末には、容器も出回り、一叭当り四十キログラムとして正確な数量が判明したものである。)右のような事情にあるから、協議団において、適当に判断を願うと云つた迄で、帳簿間の不符合を認めたものでない。

(2) 右製品の横流しについては、当時は物資が不足して居たから、原材料を早く入手するために、馬車屋等に、製品を統制外に提供して、運搬を早くしてもらつたり、したものである。これを会計上、経費と売上等に、記入すべき処を、相殺して記入しなかつたから、この点帳簿では、真実はつかめない。然しその量は、極少量であつて一三二五七・九リツトルの大量の醤油を横流ししたとする主張が容認出来る筋合のものでないことを、示すものである。

第七点 判決に影響を及ぼすこと明かな、甲第三十三号証等を措信しない原判決には、採証法則違反、理由不備の違法がある。

原審が引用した第一審の「証人、橋爪政次の証言、上告会社代表者尋問の結果、および甲第三十三号証、同第三十九号証の各一部は措信出来ない」との判示(三十頁)であるが、右の内甲第三十三号証を取り上げて見ると、右橋爪政次が、税務当局に、本件更正決定に対する説明を求めても、その答が得られなかつたことを示すものである。そして右事実の証明が原審で信用してもらえないものである処、甲第二十八号証、及び、乙第十号証は共に「再調査決定額(更正決定額)につき係官より説明がなかつた」旨明示して居るから、右措信出来ないとしたのは、間違て居て正しくない。従つて、証人、橋爪政次の証言、上告会社代表者尋問の結果、並びに、甲第三十三号証、同第三十九号証につき、措信出来ないとする根拠を、挙示しない以上、原判決には右述の違法がある。

第八点 「審査請求書類と対照して、不備欠陥がない協議団議決報告書を、正当なものと信用したために、訴外名古屋国税局長に、過誤があつたとしても、その調査に欠けるところがあつたが故に、或は、その職務上要求される、通常の知識経験に、欠けるところがあつたが故に、一見明瞭な事実誤認をおかしたとは云えない。」旨の第一審判示(三十九頁乃至四十一頁)を引用した原判決は理由不備、審理不尽、判断遺脱の違法がある。その理由を左に述べる。

一、右協議団報告書なるものは、提示されて居ないから原審も判断が出来なかつた筈である。

二、今仮りに右報告書に本件腐敗の件が記載なかつたとしても、次の通り右判示は失当である。

審査請求理由は「再調査決定額につき、係官より、説明なきため、その内容が不明である。従つて上告人の決算書は間違つて居ない」(甲二十八)としたもので、その趣旨を敷延すれば「一方的な押し付け課税では納得出来ない。又本件更正決定のための調査は、藤具係官が臨場した僅か半時間足らずの調査であつて(藤具証言、上告本人の供述)この程度の調査で、事実が把握出来たか、否か、特に、一見だにしなかつた腐敗品が考慮されたか、否か、等全く不明である。上告人の決算書には、右諸点も加味してあるから、今一度調べ直してほしい。」と、云うにある。そして審査に当つた協議団に、右事情を申立て、その通りの調査を受けたことは、第一審も認めた(四十二頁)処である。然るに、右局長は、審査決定に当り、右事実を、職責上知つて居なければならない立場に、居りながら、右申立事項を全く無視したために、事実誤認を犯したものである。従つて審査請求書類の表面ばかりを見て、延百余人の協議官が調査した事実を、見逃した右局長の職務上の責任は追求されて当然であるから、右判示は失当である。

第九点 「本件課税処分に当り、訴外名古屋国税局長及び、訴外松阪税務署長等が、本件腐敗物を、係争年度のものであるとの認識の下に敢えて、これを無視したものでない。」とする第一審判示(三十三頁)を引用した、原判決は左記の通り理由齟齬がある。

本件処分に当り、右係官等が腐敗物を意識して居なかつたことは、証人真弓金二郎、同藤具貞の証言により、首肯出来る。然し上告人が右係官等に故意過失ありとする点は、右認識下に敢て無視した、」と、云うのではなくして、調査により、知つて居たか、或は、知る筈のこと(上告理由第一点、同第三点一、同第六点五(2)(イ)参照)を全く気付かず、従つて、腐敗品が係争年度のものであるかどうかも、考慮しなかつた点を指したものである。

第十点 「別件行政訴訟における、各審級の判断を鑑みれば、訴外松阪税務署長、及び同署藤具係官の調査に、一見明瞭な誤りを、おかしたものと断じがたい。」との第一審判示理由(三十八頁)を引用した原判決は、左の通り理由齟齬がある。

別件行政訴訟は、本件所得金額を金三〇万五、〇七三円五二銭として、審理したものであるから、右署長等が決定した金一五万四、四一九円については適確な判断は出来ないものである。従つて右判示の通り「断じがたい」のは当然であるが、その故をもつて、上告人が主張する、右署長等の故意過失の行為を許容することはゆるされない。

以上

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